「プラーナ」とはサンスクリット語で「生命エネルギー」のことで、「呼吸」という意味でも使われます。多くのヒンドゥー教の古い文献の中でも、この言葉は同じような意味で使われ、現代ではヨガや太極拳、タントラのように身体意識を鍛えたり、心と体と精神のバランスに意識を集中して行う運動として取り入れられています。これらに共通する教えは、私たちの活動に欠かせないエネルギーは毎日の食事で補われる栄養エネルギーだけではではないということ。人間を含む全ての生き物が持つ生命力そのものである「生命エネルギー」があります。これが「プラーナ」です。
私たちのエネルギー源は呼吸です。体の中のプラーナの循環が悪いと、体調が悪くなったり病気になるとも言われています。また、心の状態と呼吸は影響し合っています。呼吸が安定していて、体の中に空気が流れているとき、心は整理されスッキリした気持ちでいられます。心がいつも穏やかでいるためには、呼吸を安定させる練習が欠かせません。この練習はヨガの呼吸法としてプラナヤマと呼ばれています。それぞれのプラナヤマ呼吸法を実践することで得られる、知識や学びとは何でしょうか?呼吸することで、心と体にどのような影響があると思いますか?一緒に学んでいきましょう!
想像してみてください。家にあるWi-Fi接続や、携帯電話の電波にも届く“範囲”がありますよね。その外では電波が届かず、切断されてしまいます。この例を私たちの体に置き換えて考えてみると、ここで言う「電波」は「体内エネルギー」なのです。圏外ではシグナルが弱くなるため、エネルギーの流れが妨害され、体に不調をきたすことがあります。このエネルギーの範囲はプラーナに関係しているのです。生物学と神経科学の観点から、私たちの心と体の状態は神経系の働きとつながりがあることがわかっています。気持ちが落ち着いている時の呼吸は安定していますが、心がざわついている時には無意識のうちに呼吸を止めてしまっている、なんて経験はありませんか?他にも、頭を悩ませているとき、呼吸は深くなり大きなため息がでます。身の危険を感じると、呼吸が速くなり体は緊張してこわばります。これらはすべて、神経系の働きから生まれるものです。
呼吸の仕組みは複雑で、筋肉や内臓器官、姿勢やアライメントなどさまざまな要素が関係しています。プラナヤマを行う際は、まずこの仕組みについて知り、呼吸をしている時に体の内側では何が起こっているのかを探るところから始めてみましょう。座って行う瞑想やヨガでも、常に呼吸を観察するようにしてください。毎朝起きてすぐに心身のコンディションや呼吸に意識を向けてみると、今の自分の状態が呼吸と密接に関わっていることがわかるでしょう。プラナヤマは呼吸と心を安定させる呼吸法です。その次のステップは集中力や気づく力を養い、自分の状態をコントロールできるようになることです。
プラーナの循環をよくし、流れをコントロールする方法はたくさんあります。例えばヨガなどは、哲学や教えに基づいて様々な流派があり、呼吸法の正確な数はわかっていません。ですが、ここではその点を考慮しつつ、いくつか共通する要素をピックアップしてまとめた呼吸法をご紹介します。何よりも大切なのは、プラナヤマをあらゆる面から見ることです。プラナヤマとはただ息を吸って吐くことではありません。
プラーナの循環に影響する要素:
呼吸をコントロールする方法をさらに深く理解するために、まずこれらの要素を確認してみましょう。
アライメントとは、頭や背骨、骨盤、手足の配列のことをいいます。先にも述べたように、体の中にあるさまざまな内臓器官や構造が呼吸において非常に重要な役割を果たしています。鼻から吸った息は肺胞から血液に入り、体の全ての細胞に酸素が行き渡ります。
肺は胸郭の中にあるため、息の量や呼吸の質を維持するためには、胸郭はしっかりと開いた状態で、前かがみの姿勢になっていてはいけません。背筋をしっかり伸ばすことで、肺の可動域が最大限まで広がります。腹腔が開き、リラックスした状態であること、また横隔膜を効率よく使うことで呼吸の質を変えることができます。このように、呼吸の質を高めるためには体のアライメントを整えることがとても大切です。ヨガの八支則でもポーズを意味する「アーサナ」は3番目に位置しています。アーサナを行うことで、人間の本来あるべき自然な姿勢へと導いてくれます。その後の4番目に位置しているのがプラナヤマです。
ヨガの八支則はそれほど厳しいものではなく、マスターするまで次に進めない、というわけではありません。ですが、呼吸をコントロールする方法を学ぶための基本は体を動かすこと、そしてアライメントであることは間違いありません。そのために私たちは定期的に運動し、体を動かす必要があります。仕事や学校、また日々の生活の疲れから、特に背中の筋肉は弱くなっている可能性があるので、意識して動かしてみましょう。
活動的な毎日を送ることは、心の安定やモチベーションの向上に繋がります。激しいエクササイズや、身体意識を鍛える練習を積極的に行うことが活動的な毎日ではありません。ウォーキングに出かけたり、ダンスをしたりして楽しんだり…体を積極的に動かすことで、自律神経が安定し、心も穏やかになります。軽い運動をすることで得られる喜びや楽しみを実感すれば、他にやらなければいけないことにも気持ちよく取りかかることができるでしょう。運動によって体に力がみなぎり、生命力が安定するのです。体を動かすことは、呼吸を速め、体に入る酸素の量を増やし、体内に蓄積されたエネルギーや筋肉のこわばりを解放し、プラーナの循環を良くしてくれます。
背骨がしっかりとサポートされ、定期的に行えるものであればどんな運動でも構いません。自身の体や好み、健康状態に合わせて選んでみてください。
私たちの生命力を引き出してくれるものは、呼吸だけではありません。「音楽は心の栄養」という言葉もあるように、私たちの心を元気にしてくれるものはプラーナの循環も良くしてくれます。気分が上がるような大好きな曲を聴いたり、お花畑を散歩したりすることで1日の流れが変わります。アートや工作に触れたり、感覚が刺激されたりすることで、私たちの心のエネルギーが満たされるのです。人との交流によって信頼や愛情、つながりなどを感じることでも自律神経が安定し、心が穏やかになります。これは多くの人が経験していることでしょう。
呼吸と私たちの関係でもう1つ大切なのは、体の健康です。健康に正解、不正解はありませんが、自分の体を元気にしてくれる食べ物を自分で知ることが大切です。呼吸法の練習をすすめていく上で、健全な食生活は欠かせません。お腹にガスが溜まったり、お腹が張ったり、便秘や消化不良などは腹腔全体によくない影響を与え、練習にも影響します。これらの症状にがある場合は、医師に相談してみるのがいいでしょう。健全な食生活とは、元気が出て喜びを感じる食べ物を積極的に取り入れることです。
ヨガではシンプルな呼吸法が取り入れられています。プラナヤマ呼吸法には様々な種類がありアプローチもそれぞれ異なりますが、ここでは一般的な呼吸法をいくつかご紹介します。プラナヤマ呼吸法は2つの主なグループに分けることができます。パワーが必要な運動の前に行うと効果があり、エネルギーを高めるウォーミングアップの役割を果たす呼吸法、そしてクールダウンのように心と体を安定させてくれる呼吸法の2つです。まずは、プラナヤマにとって大切な「バンダ」についてご説明します。
バンダとは「ロックする」という意味です。これをプラーナや体の動きの観点から見ると、どんなアクションなのか想像がつきますか?呼吸の流れを思い浮かべてみましょう。呼吸には、息を吸う、息を止める、息を吐く、そしてまた息を止める、という4つの段階があります。普段私たちは息を吸って、吐いてというこの2つの動きをとても短い間隔で行っています。無意識で行っているのです。ですがプラナヤマ呼吸法では、息を吸った状態で止める、また息を吐いた状態で止める、この2つの動きを特に大事にします。
私たちの体には、のど(ジャーラン・ダラバンダ)、腹部(ウディアナバンダ)、骨盤(ムーラバンダ)の3つのバンダがあります。バンダを練習する根本的な理由はプラーナの流れに変化をもたらし、体の中にプラーナを閉じ込めることで体内のエネルギーの量を増やし、酸素が体の隅々まで行き渡るようにするためです。バンダのテクニックを利用することで、肺活量が増え、徐々に体力の高まりが実感できるようになるでしょう。バンダの練習はパワフルなので、指導者がいるところで定期的に行うことをお勧めします。バンダを習得すると、体のアライメントが整い、プラーナの循環が安定します。
他のプラナヤマ呼吸法とは違い、ウジャイ呼吸法の練習は1人でもできます。ある一定の時間に行ったり、繰り返し練習したりしてみましょう。ヨガの練習中や座っている時、仕事をしているとき、歩いている時などに、普段の自然な呼吸の代わりに行うこともできます。ウジャイ呼吸法には、心が穏やかになる、腹部の緊張を和らげる、胸郭内の容量が増える、などさまざまな効果があります。「海の呼吸」または「ダース・ベイダーの呼吸」とも呼ばれ、呼吸の時に出す音がスターウォーズのキャラクター、ダース・ベイダーに似ているということでその名がつきました。練習方法もとっても簡単です。
最後のステップで吐く息は、波の音のように聞こえるでしょう。練習中にはノドの息の通り道が少しだけ狭くなり、それを維持しながら呼吸を行うのがウジャイ呼吸の特徴です。
イライラしているときや、神経が過敏になってるときに、目を閉じてウジャイ呼吸を1分間行うといいでしょう。心が落ち着いてくるはずです。ウジャイ呼吸はいつでもどこでもできる呼吸コントロール法ですが、体調がすぐれない時は控えるようにしてください。
シータリープラナヤマは古い歴史を持つ呼吸法で、クンダリーニヨガの練習の中で、体を冷やしたりノドの渇きを癒したりするために行われています。内分泌腺やさまざまな内臓器官の働きをよくする効果があります。水が手に入らない状態で、炎天下で長い間歩かなければいけない兵士たちや、登山家たちも同類の呼吸法を行うことがあるそうです。
【シターリープラナヤマの実践方法】
とっても簡単ですよね!慣れてきたら、息を吸う長さを5〜6秒ほどに伸ばし、息を止める長さも伸ばしてみましょう。この流れで、まずは5回から10回ほど繰り返し、自分の体の反応をみながら少しずつ回数を増やしてみてください。
※舌を丸めるのが困難な場合は、舌を少し出し、舌の表面を通って息が口に入るように意識してみてください。
ブラマリプラナヤマは蜂の呼吸法と呼ばれています。呼吸の音が、蜂がブンブン飛ぶ時の音に似ていることからこの名がつきました。この呼吸法はウジャイ呼吸法と同じように自律神経を整え、心を落ち着かせる効果があり、さらに脳の緊張状態を和らげてくれます。
慣れてきたら、何度か繰り返してみましょう。練習を終える前に、自然に呼吸をしながら目を閉じ、口や舌、顔や頭の状態に意識を向けてみましょう。人差し指で耳をふさぐだけでも、簡単に練習できます。
さまざまな種類の呼吸法とそのやり方、大切なポイントをご紹介しました。今まで聞いたことのなかった呼吸法や知識などはありましたか?この記事をきっかけに、ぜひ呼吸法の練習を始めてみてください。コメント欄でみなさんの体験や感想をお待ちしています!