最近、マインドフルネスや瞑想は一種のトレンドとして広がりをみせています。科学的な脳トレや心理療法としての認知を高める一方、瞑想という言葉から、あぐらをかいて手を膝の上に置き「オーム」と唱えるといったような、より宗教的でスピリチュアルなものを連想する人もいます。その捉え方も多種多様です。古来の教えとしてのマインドフルネスは、現代では研究課題ともなっています。マインドフルネスがストレスや不安にうまく対処し、注意力を高めるのに役立つという経験的な根拠も挙げられています。
マインドフルネスとは、「今この瞬間に存在する状態」を意味する言葉です。同時に、「今この瞬間」を意識して、自分の環境や身体・心の状態に集中することで、人生を偏った見方をせずに受け入れる、心の修行としても実践されています。また、マインドフルネス瞑想は「ヴィパッサナー瞑想」としても知られており、これは意識の向上を促す瞑想法のひとつです。ヴィパッサナーとは、「起こっていることをそのまま見る」ことを意味します。この定義の通り、マインドフルネス瞑想とは、目の前で起きているものや、あるものに集中することで、「今この瞬間」の充実感を高めるのです。
マインドフルネス瞑想の概念について理解できたところで、今度はもっと具体的な実践方法をみていきましょう。マインドフルネス瞑想には、準備する道具や、瞑想を学んだ経験は必要ありません。すべきことは「今この瞬間」に注意を向けるだけ。いつでもどこでも実践することができます。その方法は、呼吸を意識する、体の感覚を意識する、自分の思考に気づく、などがあります。さらに、周囲の音や色、匂いにも注意を向けることも実践の一つです。そうすることで、無意識に過去や未来のことばかり考えている心を、「今この瞬間」へと呼び戻すことができます。しばらく実践していると、徐々に生きることに対する感じ方が変わってくるでしょう。この効果は瞑想中だけでなく、瞑想をしていないときにも実感できるようになります。マインドフルネスを生活の中に取り入れることで、日々の活動から得られる満足感や、人生に対する許容度が広がっていくでしょう。
マインドフルネス瞑想は、ストレスに上手く対処するためのテクニックでもあります。他の感情と同様に、ストレスを感じることは人間ならばごく自然なこと。しかしながらストレスは不快な感情であるため、そのサインを無視したり、我慢したりしてしまうのです。マインドフルネス実践は、いわばストレスなどの不快な感情をより身近に感じる練習です。どんな心の状態もありのまま受け入れ、冷静さや安心感を保とうとアプローチすることで、ネガティブな感情とも共存できるようになるでしょう。また、生活の中にあるストレス要因に気づくことで、それらの影響を和らげるためのリソースを得られます。
定期的な瞑想実践は、ストレスの軽減だけでなく「今この瞬間」を大切にする心のあり方を育みます。ベッドに入ると考え事が止まらずなかなか寝付けないという人も、だんだんとこうした眠りを妨げるような思考にとらわれることが少なくなり、質の高い睡眠を享受できるでしょう。
たとえマインドフルネス瞑想をプライベートな空間で行ったとしても、あなたはその効果を生活の中の至るところで実感することとなります。「今この瞬間」を生きることができれば、人間関係においても自分の存在や価値を実感するはずです。これは健全な自己肯定感や自慈心につながり、人とのつながりや会話を楽しむことができるようになるでしょう。自分の心の動きを観察していると、他者に対して抱く感情や反応に気づくことがあります。こうした気づきの訓練を繰り返していくうちに、傾聴や共感、理解といった能力も育つので、コミュニケーションが取りやすくなるのです。
私たちの心は、しばしば物思いにふけります。絶えず過去に起こったことを思い起こしていたり、将来の出来事を思い描いたりしていると、次第に日常生活の中で「今この瞬間」に集中するという感覚が失われていきます。しかし、こうした集中力も、トレーニングを続けることで高めることができます。負荷をかけることで強度を増す筋肉のように、忍耐と思いやりを持って「今この瞬間」に注意を向ける練習を続けることで、集中力も鍛えられるのです。
残念ながら、人生には思い通りにならないことがたくさんあります。どんなに経験豊富な人でも、計画通りにいかない状況には悩まされるものです。マインドフルネス瞑想は「ありのままを受け入れる」と繰り返し言いますが、これは噓のポジティブさで塗り固めたり、あらゆる出来事を無理やり楽しんだりすればいいという意味ではありません。むしろ、怒っている時には、自分が怒っていると気づくこと、そして怒っている自分の存在を認めてあげることこそが、マインドフルネスの「受け入れる」です。今起こっている出来事や感情から意識的に一歩下がってみると、怒りの全体像が見えてきて、その経験自体を俯瞰することができるようになります。変化には困難がつきものです。ですが、変化のプロセスはもともと不快なものなのだと受け入れていれば、「一生このままだったらどうしよう」という気持ちは次第に小さくなっていきます。こうして、人生に対する受容の気持ちのバランスが育まれていくでしょう。
瞑想が睡眠の質に良い影響を与えることは広く知られていますが、これは短期的・長期的にその効果を発揮します。即効性を有するものとしては、入眠促進などが挙げられます。
定期的な瞑想実践は、すでに起こった過去の出来事やまだ起こっていない未来への不安にとらわれている心を、「今この瞬間」に固定する習慣をつくります。これにより、日中は目の前のタスクに集中することが容易となり、パフォーマンスや生産性の向上を促します。また、夜になると不安感に苛まれやすくなる人も、瞑想をすることによって、眠りを妨げられることが少なくなるでしょう。夜になって枕に顔をうずめた瞬間に、思考が押し寄せてくるという状況に、だんだんとうまく対処できるようになるのです。自己認識を高めていくことで、眠れないほどの不安感から解放され、スムーズに眠ることができるようになるでしょう。
習慣づくりにおいて、最初かつ最大の壁となるのは「時間が取れない」ことではないでしょうか。一般的に、新しいことを始める時には、やる気に満ち溢れ、きっちりと毎日欠かさず続けたくなるものです。健康的な食生活を始めようとする人の多くは、月曜日からチャレンジを開始しますし、避けるべき食品リストを作ってストイックに自分を律します。しかしながら、結果は私たちが期待する以上にゆっくりとしたペースでついてくるもの。最初に設定した高い目標をプラン通りに達成できなかったとしても、すぐに失敗だと決めつけやめてしまうのではなく、そのプロセスを楽しみながら継続していく必要があります。
瞑想を始めるにあたって、「忙しくてそんな時間はない」「わざわざ時間をとって、瞑想なんかに時間をかけるのはちょっと…」と億劫に感じるかもしれません。そんな時は、短い瞑想からトライしてみましょう!例えば、初日はたった1分間だけ静かに座って、呼吸してみてください。この60秒の練習でなんらかの効果を感じたり、やりきったという達成感を得るだけでも、次のステップに進みやすくなります。翌日は3分間、またその翌日には5分間の瞑想にチャレンジしようという意欲がわいてくるかもしれません。少しずつ分数を伸ばしていくことで、週の終わりにはマインドフルネス瞑想の時間を10分ほどにまで増やすことができるでしょう。
特に瞑想を始めたばかりのビギナーや、長らく瞑想実践から離れていた方にとっては、いきなりまとまった練習時間を確保することは容易ではないはずです。いきなり30分の瞑想を始めるのではなく、徐々に時間を延ばしていくことで、心身に負担をかけることなく取り組むことができます。また、忙しい毎日だからこそ、数分間の瞑想タイムは休憩時間としての役割も果たすでしょう。心身のオーバーワークを防ぐ安全な方法として、マインドフルネス瞑想を習慣化してみてはいかがでしょうか。
ただ闇雲に座り目を閉じているだけでは、「今この瞬間を感じる」という感覚がうまく掴めなかったり、自分のやり方が合っているのか不安になって集中できなくなったりするかもしれません。このような悩みを抱えているならば、ガイド付き瞑想がおすすめです。一人だからこそあれこれ頭に思い浮かんでしまうもの。ならばガイド音声に旅案内を頼んでみましょう。あなたがすることは、静かな場所見つけてゆったりと座る、ただこれだけです。自己探求や受容、不安、モチベーションなど、さまざまなテーマの中から、自分に合った瞑想法を選んでみてください。まだ瞑想に不慣れな場合は、ボディスキャンや呼吸法など、より一般的なものから始めてみるのもいいでしょう。
瞑想の習熟度や実践年数などは、ガイド付き瞑想を選ぶ際にはあまり関係ありません。というのも、私たちの心は毎日同じ活動をしているわけではないからです。瞑想の習慣がすでに身についている人も、瞑想のスキルが鍛えられているという人も、いつも思い通りに瞑想できるとは限りません。時にはサポートが必要だと感じることがあります。学校や仕事、人間関係、子育てなどにおいて、周りのサポートを求めるのと同じように、自分のコンディションによってガイドの力を借りることも大切です。疲れて思考がとめどなく溢れてきたり、少し瞑想が億劫だと感じる時こそ瞑想アプリを活用して、ガイド音声に耳を傾けましょう。声に身を任せ、自分に向き合うことで、心身がリラックスしていきます。
音楽は心身にさまざまな影響を与えます。好きな曲を聴いて元気をもらったり、音に癒されたりする経験を、皆さんもお持ちなのではないでしょうか?日常のさまざまな場面で音楽の効用を感じることができると思います。
こうした音楽は、瞑想にも効果的です。ガイド付き瞑想に加えて、穏やかな音楽は心理的な安心感やリラックス効果を生み、私たちをマインドフルネス状態へと導いてくれます。好きなリズムに身を任せて、自由にマインドフルネスを実践することで、これまで想像もしていなかったような体験ができるかもしれません。風や波、雨音など自然の音や、リズミカルなメロディーも瞑想に向いています。カリンバ、クリスタルボウル、ハープなどの楽器の音色とリズムは、あなただけの穏やかな瞑想空間を演出してくれるでしょう。ぜひ瞑想に音楽を取り入れてみてくださいね。
冒頭でお伝えしたように、瞑想は古くから高度な意識状態をつくりだすトレーニングと考えられてきました。仏教やヨガ由来のもの、もしくはマインドフルネスのように古典的瞑想を科学の分野に取り入れたものなど、その流派はさまざまですが、どれも経験に支えられた実践方法であり、心と身体への効果が確認されています。瞑想やマインドフルネスに関する書籍は多く存在し、MBSRをはじめとするマインドフルネスの考え方を応用したストレス軽減プログラムも心理療法として認められています。ここでは、マインドフルネス実践に役立つ書籍をいくつかご紹介します。
1冊目は、世界的に有名なドイツの作家ヘルマン・ヘッセの小説『シッダールタ』です。シッダールタとはサンスクリット語で「目標を達成した者」を意味し、後に「ブッダ」として仏教を広めることとなる人物です。彼の冒険を通じて、自分自身や人生の出来事に対して、新しい視点を持つことができるでしょう。
次に、瞑想の練習を始めたばかりのビギナーや、瞑想についてもっと知りたい方におすすめしたいのが、マインドフルネスの創設者であるジョン・カバット・ジンによる『Mindfulness for Beginners(邦題:マインドフルネスのはじめ方―今この瞬間とあなたの人生を取り戻すために)』です。ジョン・カバットジンは、アメリカの医学博士で、マサチューセッツ工科大学にマインドフルネスセンターを設立しました。『Mindfulness for Beginners』は、マインドフルネスの概念を科学的なアプローチでまとめ、わかりやすい言葉で説明しています。
カバット・ジン氏が、こうした概念を現代科学的に噛み砕き、私たちにも慣れ親しんだ視点から説明しているのに対し、ベトナムのティク・ナット・ハンは、著書『The Miracle of Mindfulness(邦題:マインドフルの奇跡~今ここにほほえむ)』で、東洋の長い歴史の中で培われた視点から、マインドフルネスの概念を説明しています。禅僧であり、平和運動家でもある彼は、瞑想への取り組み方や心持ちについてさまざまな方法を示しています。『The Miracle of Mindfulness』は、瞑想実践のハンドブックとも言えるでしょう。
また、ベストセラーとなったエックハルト・トールの著書『The Power of Now(邦題:さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる)』も、日常生活で「今この瞬間」に集中する重要性を示しています。マインドフルネスの実践を生活に取り入れることで、人生観が変わると述べています。
最後は、チベット仏教の師ソギャル・リンポチェの『The Tibetan Book of Living and Dying(邦題:チベットの生と死の書)』です。リンポチェは、チベットの古代の教えの中で、当たり前だと思われていた様々な問題に焦点を当て、私たちの前にある事柄に対して常に疑問を持つべきだと説いています。
今回ご紹介した本は、マインドフルネスという概念にさまざまな角度からアプローチしたものばかりです。これらの本を読んで、自分で考えたり、疑問を持ったりすることによって、自分の価値観を発見し、「今この瞬間」の自分を見つけることができるでしょう。
これまで、マインドフルネス瞑想の概念や効果、実践方法について説明してきました。早速瞑想を試してみたい方のために、簡単に使えるアプリをご紹介します。Meditopiaでは、マインドフルネスや瞑想に関する知識を深めるブログ記事をはじめ、ビギナーでも安心して始められるガイド付き瞑想プログラムも豊富です。瞑想に慣れてきて、自分一人で瞑想にチャレンジしたいという場合には、ガイドの代わりにBGMを選択してみましょう。音楽をうまく活用することによって、集中状態に入りやすくなります。その他にも、アクティブチャレンジや、世界中のメンバーたちと一緒に瞑想することで、一体感を味わうことができるでしょう。ストレスを感じたら、自分に癒しの時間をつくってあげてください。自分の内なる声に耳を傾けることで、人生のあらゆる面に刺激と活力を与えることができるはずです。マインドフルネスがなかなか続かない…という人は、習慣化を助けるリマインダー機能などもおすすめです。
マインドフルネス瞑想が、あなたに新たな視点と心の余裕を運んでくることを願います。自分自身を知る旅のお供に、今回紹介したリソースをぜひご活用ください。いつも「今この瞬間」を大切に。