人間関係は、ある種の「生き物」のような性質を持っています。それぞれに独自の個性があり、月日が経ち経験という名のデータが貯まっていくと、人の意思決定に影響を与えるまでに成長します。さまざまな背景や環境要因が混じり合って生まれ、ひとつの人間関係がもうひとつの関係を生む。そんな複雑な構造をしているのです。
恋人との恋愛関係は、その中でも間違いなく特殊なものだと言えるでしょう。多くの人間関係は、「家族」「同級生」「同僚」といったようにシーンや関わり方によってカテゴライズすることが可能です。家族はあなたの職場での顔をよく知りませんし、同僚は家でのあなたを知りません。しかし恋人は、私たちの生活や人生など、さまざまな側面と結びついています。恋人は人によっては同僚でもあり、一番の友人でもあり、将来的には家族にもなり得ます。このような意味で、恋愛関係は独自の空間を形成しているのです。これを私は『恋愛空間』と呼んでいます。この空間には、自分を形づくる「核」となるものの痕跡が残っています。誰よりも心を許している相手だからこそ見せられる、生々しい感情や飾らない素の部分、純粋な欲求が溢れているのです。こういった情報は関係性の在り方だけではなく、渦中の二人にも大きな影響を与えます。
私たちは他者との関係を築くとき、自分の価値観や信念、恐れ、悩み、希望、願望などを持ってその関係性の中に飛び込んでいきます。つまり人間関係は、一人一人の登場人物が物語のかけらを持ち寄ることで築かるものなのです。ただ、この物語はしがらみになることもあります。だからこそ自分自身を洞察することで、私たちは自分が恋愛空間に何を持ち込んでいるかを認識できるようになります。そしてこの認識が、私たちが自分の物語の中で何を恐れているのかを知る手がかりになるだけでなく、それをプラスの力に変えていく方法を私たちに教えてくれます。
恋愛空間に自分がどんな信念を持ち込んでいるのかを見つめなおすこと。それが有効な手がかりのひとつです。私たちは皆、人生やその中での自分の役割について特定の信念を持っています。「完璧でなくては」「すべて一人で解決しなくては」という考えに圧倒されていたり、「なんとかなる」「私は一人じゃない」という考えを支えにしていたりするかもしれません。こういった感情は、私たちが困難や厳しい状況に出くわした時、どのようにして対処しているか、あるいは対処しようとしているかといった姿勢を示してくれることがあります。また、このような感情がそもそもなぜ沸いてくるのかという点をより深く理解すると、私たちの行動パターンを知る手がかりにもなります。
次の問いについて考えてみましょう。恋愛関係を見直し、私たちがその中でどのように振る舞っているのかを探ることができます。
「パートナーについてどう思っていますか?」
「パートナーとの現在の関係についてどう感じていますか?」
「緊張やストレスを感じている時、リラックスしている時など、その時々の感情や気分によってパートナーに対する想いは変わりますか?」
「なぜそれが起こるのだと思いますか?」
「相手に自分の経験を話す時、『いつも』『絶対に』といった、断定的な言葉を使っていますか?」
「そのような言葉を使ってしまいがちなのは、何について話しているときですか?」
いかがでしょうか。このように一つ一つ丁寧に自分に問いかけ考えてみることで、あなたが今ある恋愛関係について何を感じているのかが、だんだん見えてくるはずです。
恋愛空間には、他に比べてより強く激しい感情が現れる傾向があります。ポジティブなものもあれば、ネガティブなものもあり、これらの存在が恋愛をよりロマンチックに、そしてドラマチックにしています。しかしこうした強い感情はしばしば制御不能になることがあり、パートナーとの関係性だけでなく、私たちの精神面にも大きな影響を与える可能性があるのです。例えば、不信感や不満など、ネガティブな感情を常に抱えながら付き合い続けていると、パートナーとの連帯感や一緒にいることへの喜びが霞んでしまいます。逆に相手を好きであるがゆえに、良いところばかりを盲信してしまうと、お互いにとって不健康な関係になってしまうこともあるでしょう。こうしたケースを避けるために、恋愛空間の中では、どんな感情が大きくなっているのかを認識することが重要になります。自分の感情を一歩下がって見る、そんな客観性が必要なのです。
自分の情緒的ニーズを認識することで、つらく困難な状況下でもうまく対処できるようになります。お互いに何を必要としているのかを少し突っ込んで話し合ってみましょう。相手がどのような行動を取ったときに、あなたは怒りや不安、恐れ、自信のなさを感じるのか、そしてどんなときに相手が自分のことを理解していないと思うのか、あなたの思考や感情のパターンをパートナーに伝えることから始めてみてください。
また、こうしたネガティブなものばかりでなく、恋愛関係をより豊かなものにするポジティブな感情や経験を認識することも重要です。次のような点を考えてみるといいでしょう。
「どんな状況にいると、安心感や自信、幸福感が湧いてきますか?」
「どんなときに、あなたは相手に理解されていると感じますか?」
「どんなことをしているときに、その気持ちが続き、強くなりますか?」
「相手にためらうことなく助けを求めることができますか?」
このような問いに対する自分の答えを考えると同時に、パートナーがどう考えるかについても想像してみてください。答えやイメージをお互いにシェアし合うことで、パートナーと一緒にこの問題について考えることができます。
私たちの内外にあるリソースは、私たちの幸福を育てるサポートメカニズムです。恋愛関係にも、その満足度や親密度を高め、豊かにするためのリソースがあります。パートナーと一緒にアクティビティを楽しんだり、一日の出来事をシェアしあったり、こうした日常に溢れるリソースは、私たちの恋愛関係を健全な方向へと導いてくれます。
リソースをどのくらい活性化できるかどうかは、コミュニケーションの力にかかっています。二人の時間をつくり何でも率直に気持ちを表現できること、つらい状況でも相手の話を聞く姿勢を持つこと、感情や肉体はお互いをつなぐ方法の一部に過ぎないと認識すること、そして、持っているリソースを活用しようという意図を互いに共有することが重要です。適切なコミュニケーションは、パートナーとの関係を誤解や思いこみといった悪循環から守ってくれます。
ここまで、自分やパートナーが求めるものを理解する重要性についてお話ししてきました。互いのニーズを知れば、互いに支え合う方法も自ずと見えてきます。このような相互分析は、特に付き合いの長いカップルや夫婦の関係性を見つめ直す際にも適用することができます。次の質問を定期的に自問したり、パートナーと一緒に考えてみたりしましょう。
「付き合い始めと今を比べると、何が変わったでしょうか?」
「二人の関係を強く、深くしてくれたものは何でしょうか?」
「以前と比べてする機会が減ったこと、または増えたことは何ですか?」
「その行動の変化が二人の関係に与えた影響は何でしょうか?」
転居や転職、出産または近親者を亡くすといったライフイベントによって、パートナーとの関係の形が大きく変わることがあります。このような状況が当てはまる場合、次のような問いについても合わせて考えてみるといいでしょう。
「そのライフイベントが二人の関係に及ぼした影響について、あなたはどのように感じましたか?」
「恋愛空間のどこに大きな変化を感じましたか?」
「あなたのパートナーに対する態度は変わりましたか?」
「どういった場面でその変化を強く感じましたか?」
特に人生の転換期では、今と昔を見比べ、そこにある変化や影響を吟味することがポイントです。比較を通して、今の自分が必要としているものが見えてきたら、それをパートナーに包み隠さず伝えてみてください。コミュニケーションは、いつでもパートナーとの距離を縮める一番の近道なのです。
恋愛空間の構造を認識し、そこにあるものについての理解が深まると、困難な状況下でも建設的な解決策を探れるようになります。恋愛関係を三次元空間としてイメージし、何があるのか想像してみましょう。
「この空間の中にどんな信念がありますか?」
「その信念はどのくらいのスペースを取っていますか?」
「その信念はあなたの感情とどのように関連していますか?」
愛情や願望といったプラスの感情よりも、失望や落胆などマイナス感情の方が大きくなって、二人の恋愛空間を埋め尽くしてしまっているという場合もあります。そんな時は、続けて次のような問いを考えてみてください。
「パートナーが自分のことを理解していないと感じ、心に壁を作っていませんか?」
「どのくらいの期間このような気持ちが続いていますか?」
「どのような変化が起こることを期待しますか?」
「どういった状況なら、パートナーに歩み寄り、一緒に改善しようと思えるでしょうか?」
問いは無限につくることができます。私たちはこの三次元空間から数え切れないほど多くのことを学べます。想像力を働かせながら、自分自身とパートナーの新しい側面を発見しようという意欲、そして好奇心を持ち続ける限り、喜びにあふれた関係を維持していくことは可能です。二人の絆を握る鍵は、きめ細やかなコミュニケーションに他なりません。自分を理解し、思いを言葉にすることが、相互理解へと繋がっていきます。