「未知なる恐怖」を乗り越える

連日、テレビやインターネットは新型コロナウイルスのニュースで溢れ、全世界に大きなインパクトを与えています。先の見えない不安やストレスに押しつぶされそうな方もいらっしゃることでしょう。最近では、こうした重苦しい空気が心の健康に影響を及ぼす、「コロナブルー」や「コロナうつ」という言葉も存在しています。こうした根底にあるのは、私たちに備わっている最も原始的で強力な感情の一つ、『恐怖』です。人は「得体の知れないもの」に恐怖を感じます。例えば、古代の人々は暗闇を恐れました。暗闇が迫ってくる夕暮れ時を「逢魔が時」と呼び、魑魅魍魎が出てくる時間だからと、子供たちが外に出るのを禁止したと言われます。人間の五感を超えた知覚出来ない物への不安は、今も昔も同じです。これは人間がもつ野生的な本能なのです。何かが起こるかもしれないけれど、見えない。そして、万が一何かが起こったとしても、私たちは時に自然を前にして無力である。何が正解なのかわからない状況も、不安感を大きくしていきます。恐怖に飲み込まれ、思考や行動が支配されてしまうと、不安障害や強迫性障害を引き起こし、自分自身の生活に支障をきたしてしまいます。また、日常生活や人間関係にも影響を与えて、自分だけでなく周りの人々へも「恐怖の連鎖」という悲劇を招く可能性もあります。

より多くのニュースや情報を見聞きし、より多くの人々の悲しみと苦悩を目撃することによって、私たちの恐怖はどんどん大きく成長します。そしてこの恐怖心から、次第に私たちは推測を始め、疑心暗鬼に陥り、通常の行動や活動ができなくなってしまうのです。

あなたの友人や同僚、家族であっても、皆それぞれ異なる認識と解釈を持っています。どんなテレビ番組も記事も、その向こう側には作り手や書き手がいますし、彼らもまたそれぞれの解釈に基づいて意見を述べています。あなた自身も自分の考えや感じ方を持っていますが、不安感が高まっている時にはどうしても「答え合わせ」をしようと他人の声に耳を奪われてしまいがちです。さらには、知らず知らずのうちに、他人の声の方が優先されて、自分の内なる声をかき消してしまいます。「誰々が言っていたから」「ニュースで見たから」こんな発言をしている時、私たちは大抵恐怖の中で、思考停止してしまっています。本当に正しい情報なのか、自分でソースを確かめることもできず、実際に自分自身がどう感じているのかという単純な感情にさえ気づけない状態です。

ではどのようにこの「未知なる恐怖」を乗り越えているのでしょうか?

まずは私たちの心のメカニズムから理解していきましょう。「未知なるもの」に直面したとき、私たちは通常、2つの対処法を持っています。1つ目が否定。そして2つ目は、反応です。

否定をすると、ある意味、周りの人々や自分に実際に起こるかもしれない脅威から身を守ることができます。「こんなのは嘘だ」「こんなこと絶対に起こらない」と言い聞かせることが、自分自身への慰めとなるのです。また、恐怖症を持っている多くの人がしているように、自分なりの恐怖と向き合わない対処法を取って、生活のバランスをとることもできるようになります。テレビを一切つけない、インターネットを開かない、誰とも話をしない・・。そうすることで、自分にとっての「安全な世界」を作り上げ、普通の生活を送ることができるのです。これは、一見自分を守る最善の方法にも見えるのですが、恐怖の原因である「得体の知れないもの」を、そのまま放置してしまっています。現実逃避は根本の不安を取り除いてくれるわけではありません。この方法に偏りすぎると、いざという時、今まで以上にパニックに陥ってしまったり、正しい判断ができなくなったりすることも考えられます。

一方、情報に反応する場合、私たちは人々の言葉を適切に取り入れることで、恐れているリスクに積極的に対処しようとします。これは、もともとの「得体の知れないもの」に少しずつ肉付けをしていき、理性によって「得体の知れるもの」に形を変えようとするプロセスとも言えます。その全体像を把握し、なんとなく形が掴めるだけで安心感が芽生えていきます。どんなウイルスなのか、どうやって感染するのか、ではどのように防げるのか。このような、理解が深まっていけば、私たちは自分の対処プランをも立てることができるようになります。例えば「マスクを絶対にして外出しよう」「人混みが多いところには出向かないようにしよう」「一日に6回は手洗いうがいをしよう」こんな風にです。自分の中で、安全への道筋が立てられれば、安心感が増し、相対的に不安感は減っていきます。しかしこれは、現代の情報過多の時代に容易なことではありません。「正しい言葉を適切に取り入れる」というステップは、おびただしい量の情報の中から、自分の力で精査しなければならないということを意味します。ネガティブなもの、攻撃的なもの、中には悪意のあるものまで、全てに目を通しているだけで心は疲れてしまいます。また、苦労して自分の「予防策」を作れたとしても、例えば「もしうっかり手洗いを忘れて、口を触ってしまったらどうしよう?」「さっきのうがいは十分じゃなかったかもしれない」こんな風に新たな恐怖や不安が広がり、強迫性障害を引き起こしてしまう可能性もあります。

では結局、2つの対処法どちらも一長一短で、救いがないではないか!と思ってしまった方、どうか安心してください。ここからが本題です。あなたが今、どちらか一方に偏っていたとしても全く問題ありません。逆に日によって浮き沈みがあって、どちらか一方を選べないという方、むしろこれは正常な状態です。大切なのは、この2通りの方法をうまく使い分けていくことなのです。私たちは、進化の過程で、「恐怖」への対処法を身につけてきました。危険溢れる、過酷な環境の中で暮らしていた祖先たちは、身の回りの危険を敏感に察知し、危ない場所を記憶することによって、生き残ってきました。恐怖を理性でコントロールしようとしたり、時に拒絶したりする反応は、長い年月をかけて人間が身につけてきた「得体の知れないもの」に囲まれながら生存する術なのです。どちらか一方だけではなく、2つのバランスを上手に取ることが、未知なる恐怖を乗り越える鍵となります。

そのためには、いつも自分の心の声に耳を傾ける癖をつけましょう。自分に優しくあることがこれまで以上に重要です。ソーシャルメディアを見ると心がざわつく感じがするなら、スマホから離れてみましょう。テレビのワイドショーが煩わしいと感じたら、その時間帯は映画を観る時間にしてしまいましょう。逆に、情報収拾して安心したいと思ったら、時間を決めて行うか、一次情報を確認して信頼できる情報に触れましょう。特にこのような状況では、自分の感情と戦うことはなんの解決にもなりません。聞きたくないことを聞く必要はないですし、「自分が一番安心できる」ことをできる範囲で行いましょう。不安が大きくなりすぎると、冷静な判断ができなくなり、悪質なデマに踊らされたり、間違った行動を取ってしまう危険性が高まります。あなた自身の心の健康のためになることだけをしてください。

意識的にスローダウンして、周りの騒音をすべてシャットダウンして。今の自分の状態を観察しましょう。何を感じていますか?もういっぱいいっぱいですか?少し余裕がありますか?外のニュースにばかり目が向いて、自分のケアがおざなりになっていることに、気づくかも知れません。自分がどのように感じているかを認識すればするほど、それに対処できるようになります。

今感じている恐怖の奥には、あなたが今まで経験してきた、病気や怪我、喪失の記憶が影響している可能性もあります。現在起きている出来事と無意識に照らし合わせて、「あの時みたいになるかも」とフラッシュバックが不安と恐怖を呼び起こしているかもしれません。

これも人間の生存本能の一つです。防御システムは、あなたを危険から守ろうとプログラムされているので、最悪の事態をどうにか防ごうとあなたの危機感を高めています。このシステムがあったからこそ、祖先たちは危険を前もって予測して、逃げたり戦ったりすることができました。自然界で生き残るためにはなくてはならない、重要なシステムです。恐怖を感じるからこそ、私たちは生き残ってきました。だからこそ、現代の世界でも、恐怖を捨てようとするのではなく、恐怖と向き合い、乗り越えていく、より思慮深く賢明なアプローチが求められています。

もし今のあなたが、一日中怯えて過ごし、家だけでなく、自分の殻に閉じこもって「病気にかからないこと」ばかりを考えているなら、このことを思い出してください。健康は体だけのものではありません。心も健康でなければ、あなたは楽しいと感じたり、嬉しいと感じることもできないのです。あなたの心の健康は、あなたにしか守れません。そして、心と体は2つで1つです。大きくなりすぎた不安やストレス、恐怖は、あなたの心の健康を損なうだけでなく、あなたの免疫力や体の健康をも損なう可能性があります。

今日から、情報収集に費やす時間と同じだけ、自分をケアする時間を作ってみてください。 心と体の状態をチェックしましょう。マインドフルネス瞑想をしてみてもいいですし、日記をつけてみてもいいかもしれません。単に、ニュースに釘付けになる時間を少しだけ減らして、静かに座ってみるだけでもいいでしょう。自分が何を感じて、何を思っているのかを理解する心のスペースを作ってみるのです。今だかつてないほど自分に優しく、柔軟でいてください。 私たち全員が、同じ経験をして、一緒にこのロープを引っ張っています。私たちは、一人じゃありません。世界と私たちが持つレジリエンスと思いやり、人々のつながりを信じましょう。

私たちMeditopiaはいつもあなたをサポートするためにここにいます。今日も、目の前にある小さな幸せに気づける、素敵な一日でありますように。

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